動画撮影のシャッタースピードとは?
「シャッタースピードって何?」「どんな数値にすれば自然な映像になるの?」と迷ったことはありませんか?
静止画では分かっていても、動画になると複雑に感じられるのは、不思議なところです。
そこで今回の記事では
今回の記事で分かること
- 動画におけるシャッタースピードの基本
- シーン別の設定例
- 表現意図に応じた使い方
を、初心者でも理解できるように解説します。
失敗しないためのチェックリスト付きで、撮影の前にも後にも役立つ内容です。

執筆者
この記事は、動画制作・デザインを手がける「ワイラボ」の代表が執筆しています。普段は企画やディレクションの立場から、現場チームと連携して映像制作に関わっており、その経験から得た視点でお話ししています。
1. 動画撮影におけるシャッタースピードとは?
動画を撮影する際、「シャッタースピード」という言葉をよく耳にするかもしれません。
これはカメラにおける非常に基本的で重要な概念です。しかし、正直に言って、写真の知識が少しある人でも「動画だと何が違うの?」と戸惑う部分でもあります。
ここではまず、シャッタースピードの基本から入り、静止画との違いや、動画ならではの意味、さらにフレームレートとの関係性までを順を追って解説します。
①そもそも動画のシャッタースピードとは?

シャッタースピードとは、カメラのシャッターが開いている時間のことです。
この時間が長ければ光をたくさん取り込み、短ければ少ししか取り込めません。たとえば、1/1000秒といった短いシャッタースピードなら、動いている被写体でもブレずに撮れます。一方、1秒といった長いシャッタースピードなら、暗い場所でも明るく撮影できますが、ブレが出やすくなります。
これは写真だけでなく、動画でも基本的な働きは同じです。ただし、動画では「1秒に何コマ撮るか」というフレームレートが関わってくるため、シャッタースピード単体で考えるのではなく、他の設定とバランスを取る必要があります。
②静止画と動画のシャッタースピードの違い

静止画と動画では、シャッタースピードの考え方に違いがあります。
写真では一枚ごとの瞬間を切り取るため、1/2000秒でも1秒でも、その都度自由に設定できます。ところが動画では、1秒間に何枚もの画像(フレーム)を連続で撮影する必要があります。だから、シャッタースピードもフレームレートに合わせて連動させる必要が出てくるのです。
例えば、30fps(1秒間に30フレーム)で動画を撮る場合。
シャッタースピードは最大でも1/30秒までが限界です。なぜなら、これ以上遅いと、シャッターが開きっぱなしになります。すると、映像が破綻します。そのため、写真とは違って、ある程度シャッタースピードの自由度が制限される。それが動画の特徴です。
③動画のシャッタースピードが重要な理由

動画においてシャッタースピードは、明るさだけでなく「動きの見え方」に強く影響します。
たとえば、適度なシャッタースピードで撮影された動画。この場合は、自然でなめらかなモーションブラー(動きのブレ)が含まれ、人間の目にとって心地よく映ります。
逆に、シャッタースピードが速すぎると、ブレのないシャープな映像になりますが、カクカクした不自然な印象を与えることがあります。これはアクション映画などで、あえて緊迫感やスピード感を演出するために使われる手法ですが、日常の映像では違和感の原因になります。
つまり、動画の雰囲気や見やすさを大きく左右するのがシャッタースピード。カメラマンの意図を伝える重要な要素のひとつです。
④動画のシャッタースピードとフレームレートとの関係
動画を語る上で、フレームレートとシャッタースピードは切っても切れない関係にあります。
一般的に使われるガイドラインは、「180度シャッターの法則」と呼ばれるものです。これは、フレームレートの2倍の分母を持つシャッタースピードに設定することで、自然なモーションブラーが得られるという考え方です。
たとえば以下のように対応させます:
フレームレート | 推奨シャッタースピード(180度ルール) |
---|---|
24fps | 1/48秒(現実的には1/50秒) |
30fps | 1/60秒 |
60fps | 1/120秒 |
この表のように、フレームレートに合わせてシャッタースピードを設定することで、動きの滑らかさが人間の視覚と自然に一致します。
もちろん、あえてこのルールを破ることも可能です。たとえば、超高速シャッターで被写体を止めて緊張感を演出したり、逆に長時間露光で幻想的な雰囲気を作ることもできます。ただし、それは「意図がある場合」に限った話です。何も考えずに設定を間違えると、映像のクオリティを大きく損なう結果にもつながります。
2. 動画の正しいシャッタースピード
ここでは、動画撮影で「じゃあ実際、どう設定すればいいのか?」という疑問に答えます。
撮影前に迷うポイントの一つがこのシャッタースピードの設定です。明るさ、動き、フリッカーなどの問題を防ぎつつ、自然な映像を撮るためには、ある程度の基準と柔軟な対応力が必要です。
今回は、基本の考え方から、実際の機材やシーンに合わせた設定方法までを順を追って説明します。
①動画のシャッタースピード「180度シャッターの法則」とは?
動画撮影では、「180度シャッターの法則」が基本ルールです。
これは、シャッタースピードをフレームレートの約2倍に設定するというもので、最も自然なモーションブラーを生むとされています。たとえば24fpsならシャッタースピードは1/48秒が理想ですが、カメラの設定上1/50秒が一般的です。
この法則を使うことで、被写体の動きにちょうどいい程度のブレが加わり、人間の目に自然に見える映像になります。逆にこのルールを無視すると、映像がブレすぎたり、逆にカクカクしたりと、見ていて違和感を感じやすくなります。
「まずはこのルールから始める」ことが、映像初心者にとっては失敗しない撮影の第一歩です。
②動画のシャッタースピードの:24fpsなら1/50秒が目安
具体的な設定としては、次の表が参考になります。
フレームレート | 推奨シャッタースピード(目安) |
---|---|
24fps | 1/50秒 |
30fps | 1/60秒 |
60fps | 1/120秒 |
上記の表の通りに設定するだけでも、クオリティの高い映像になります。
特に24fps×1/50秒という組み合わせ。この場合は、映画のような滑らかな映像を作る際によく使われます。
ただし、屋外で明るすぎる場所などでは、これらの設定では露出オーバーになってしまうこともあります。その場合、ISO感度やF値を調整しても限界があるので、次のような対処が必要です。
③動画のシャッタースピード:NDフィルターで光量調整
明るい日中にシャッタースピードを1/50秒に保とうとすると、映像が白飛びしてしまいます。
こういったときに活躍するのがNDフィルターです。これは「サングラスのようなもの」で、レンズに取り付けることで光の量を減らします。
NDフィルターを使えば、シャッタースピードやF値を変えずに、適正露出を保つことができます。これはプロの映像制作者が必ず持っているアイテムで、逆に言えば、NDフィルターなしでは屋外撮影はかなり厳しいのが現実です。
可変NDフィルターであれば、撮影しながら光量を微調整できるため、初心者にもおすすめです。
④動画のシャッタースピード:フリッカー回避方法

もうひとつ注意が必要なのが、フリッカー現象です。
これは蛍光灯やLEDの点滅とカメラのシャッタータイミングがズレることで起こるチラつき現象です。特に室内や古い照明設備の下で起きやすいです。
この場合、フレームレートとシャッタースピードを照明の周波数に合わせます。ちなみに、日本では照明の電源周波数が50Hzまたは60Hzです。そのため、シャッタースピードもそれに対応させるのが基本です。

例えば、東日本(50Hz地域)では1/50秒、西日本(60Hz地域)では1/60秒を基準に設定することでフリッカーを防ぎやすくなります。もしそれでもチラつく場合は、照明の種類を変えるか、シャッタースピードを少しずらして調整するなど、現場での対応力も求められます。
3. シーン別・目的別の設定例
ここでは、実際の撮影シーンに応じた動画のシャッタースピードを紹介します。
理論だけではイメージしにくいという方も多いはずです。
だからこそ、日中の屋外、夜間の撮影、動きの激しい被写体、そして映画のような演出をしたい場合など、現場に即した例を通して、どう設定を変えればよいのかを解説します。
①日中の屋外撮影:過剰な明るさへの対処法
晴れた日の屋外で撮影すると、どうしても映像が明るくなりすぎます。
特に、動画のシャッタースピードを映画的な1/50秒に設定したままはNGです。なぜなら、映像が真っ白になる可能性があるから、です。
そこで、F値を絞ったり、ISOを下げるのですが、限界があります。
ここで必須になるのがNDフィルターです。ND8やND16、さらに可変NDフィルターを使うことで、光の量を抑えて適正な明るさを保ちつつ、シャッタースピードを守ることができます。
屋外撮影=NDフィルターが必須というのは、もはや常識。逆に言えば、これがないとまともに動画は撮れません。機材選びの時点で、NDフィルターを準備しておくことが安心です。
②夜間・室内撮影:光量が足りないときの工夫
夜間や暗い室内では、光が足りず、シャッタースピードを遅くしないと明るく映りません。
ただし、動画では1/50秒以下にするのは難しいため、代わりにF値を開けたり、ISOを上げて対応することになります。
F1.8やF2.8のような明るいレンズを使うことで、暗所でも撮影がしやすくなります。また、ISO感度を上げることも効果的ですが、上げすぎるとノイズが目立つので注意が必要です。最近のカメラは高感度でもかなりキレイに撮れるようになっていますが、ISO3200を超えるとノイズ処理の限界を感じることが多いです。
どうしても足りないときは、小型のLEDライトを追加で使用するのも一つの手です。意外と忘れがちですが、現場の工夫で画質は大きく変わります。
参考記事:ISOの基礎知識
③動きの激しい被写体を撮影するには
スポーツやダンスなど、被写体の動きが激しいシーンでは、モーションブラーが強くなりすぎます。
こうした動画撮影では、あえてシャッタースピードを速めに設定して、ブレを抑えることが求められます。
たとえば、フレームレートが30fpsでも、シャッタースピードを1/120秒や1/250秒に上げて撮影すると、動きがくっきりと捉えられます。ただし、速くするほど映像が「硬い」印象になるため、どこまでブレを許容するかは映像の目的次第です。
テレビのスポーツ中継や、アクションゲームのプロモーション映像では、この手法がよく使われています。逆に映画のような柔らかい映像には不向きです。見た目の印象をコントロールする重要なポイントとなります。
④映画風に見せたいときのシャッタースピード
「映画っぽく撮りたい」という場合、迷わず24fps × 1/50秒を基準に設定しましょう。
映画は長年この組み合わせで作られてきたため、人間の目にとって最も「映画的」と感じるモーションブラーが再現されます。
あまりシャープすぎず、適度に被写体の動きにブレが入ることで、情緒やリアリティを感じやすくなります。逆に、シャッタースピードを1/100秒や1/250秒に上げすぎると、映像が「ビデオっぽい」雰囲気になり、映画的な印象から遠ざかってしまいます。
映像の印象は、数値の違い以上に「感覚」に影響を与えるものです。だからこそ、映画のような映像を目指すなら、この設定が基本になります。
4. 映像表現に与える影響とは?
ここでは、シャッタースピードが動画に、どんな影響を与えるかを詳しく解説します。
多くの人が「明るさを調整するための設定」とだけ考えがちですが、実はそれだけではありません。
この章では、具体的な演出の方向性とそのための設定について、解説していきます。
①モーションブラーが与える印象の違い
モーションブラーとは、動いている被写体に生じる「残像」のようなブレです。
これが適度に入っていると、映像はなめらかに感じられ、自然な動きとして視聴者の目に届きます。逆に、モーションブラーが少ないと、動きがカクカクして見えたり、不自然に感じられることがあります。
たとえば、人物が歩いているシーンを1/500秒のシャッタースピードで撮ると、足の動きがクッキリしすぎて違和感が出ます。普通の生活では、私たちの目は多少のブレを感じながら動きを見ているため、これがないと「なんかおかしい」と感じるのです。
一方で、ブレが多すぎると何が起きているのか分かりにくくなるので、バランスが重要です。シャッタースピードは、リアルさと演出感のバランスを取るための「味付け」なのです。
②高速シャッターで得られる効果とその用途
動画でもシャッタースピードを速く設定すると、動く被写体でもピタッと止まって見えるようになります。
これにより、スピード感や緊張感を強調したい場面では非常に効果的です。アクション映画やスポーツのハイライト、ミュージックビデオのクールなシーンなどに多用されています。
たとえば1/500秒や1/1000秒といった高速シャッターを使えば、水しぶきの一粒一粒が止まって見えるようになります。これは「非日常的な表現」として、観る側に強い印象を与える演出になります。
ただし、使いすぎると「固い映像」になってしまい、視覚的に疲れることもあるため、あくまでポイント使いがベストです。常に高速シャッターで撮るのではなく、必要なシーンだけ使うというのがプロの手法です。
③スローモーション時の注意点と設定例
スローモーション映像は、通常の再生速度よりも遅くする演出手法です。
ただし、これにはシャッタースピードにも工夫が必要です。フレームレートを通常より高く(たとえば120fpsや240fps)撮影し、再生時に速度を落とすことでスローが実現します。
このとき、シャッタースピードも高フレームレートに合わせて速くする必要があります。たとえば120fpsなら1/240秒、240fpsなら1/500秒程度が目安です。なぜなら、通常の1/50秒などのままで撮ると、スローにした際にモーションブラーが目立ちすぎて、映像がぼやけて見えるからです。
スローモーションは非常に魅力的ですが、ブレやノイズが目立ちやすいので、照明やカメラの性能にも気を配る必要があります。
④意図的な演出としてのシャッタースピード操作
最後に紹介するのが、シャッタースピードを「演出の道具」として使う方法です
。映像を「ただ記録する」だけでなく、「感情を伝える」ための手段として使うイメージです。
たとえばホラー映画では、あえて低速シャッターで不気味な残像を出したり、ドキュメンタリーでは高速シャッターでリアルさを強調することがあります。また、ミュージックビデオでは、楽曲のリズムに合わせてシャッタースピードを変化させる演出も行われます。
こうした使い方は中・上級者向けですが、自分なりの映像表現を探すうえで、シャッタースピードを「自由にコントロールする感覚」を持つことがとても重要です。映像は感情を伝えるメディア。だからこそ、その感情をどう見せるかの選択肢として、シャッタースピードを活用できると表現の幅が一気に広がります。
5. よくある失敗とその対処法
シャッタースピードに関しては「設定したはずなのに映像が変」。「なぜかチラつく」。といったトラブルが起きることがあります。
特に初心者や、初めて本格的に動画を撮影する人が陥りやすいミスにはパターンがあります。
ここでは、よくある失敗例と、その場でできる対処法を解説します。
①シャッタースピードを間違えるとどうなる?
一番ありがちなのは、「意図せず間違ったシャッタースピードで撮影してしまう」ことです。
たとえば、フレームレート24fpsなのに、シャッタースピードを1/200秒に設定してしまうと、モーションブラーがほとんどなく、映像がカクカクした印象になります。
逆に1/20秒など遅すぎる設定にすると、モーションブラーが強すぎて、動きが不鮮明になり「酔いやすい映像」になります。気づかずに撮影を続けてしまうと、あとで修正不可能な素材になってしまうのが辛いところです。
撮影前に必ず確認したいのは「フレームレートとの整合性」です。180度ルールを守るのが基本ですが、状況によって意図的に外すこともある。ただし、それは「理解して外す」場合だけに限ります。
②フリッカーやチラつきの原因と防止策
室内撮影でよく起きるのが「フリッカー」現象です。
これは照明の周波数とシャッタースピードのタイミングがずれて、映像にチラつきが出る現象です。原因が分からないと、機材の故障と勘違いしてしまうこともあります。
対処法としては、まず地域の電源周波数(東日本は50Hz、西日本は60Hz)を確認すること。その上で、シャッタースピードを1/50秒または1/60秒に合わせると、ほとんどのフリッカーは回避できます。
また、LED照明などの安価なライトでは、設計上フリッカーが発生しやすいものもあります。どうしても改善しない場合は、光源そのものを変えるという選択肢も視野に入れましょう。
③過度なモーションブラーによる映像劣化
「モーションブラーはいい」と聞いて、シャッタースピードを遅くしすぎてしまうと、それはそれで問題です。
たとえば、1/30秒で撮影したときに、被写体が速く動くと、ブレが強くなりすぎて何をしているのか判別できなくなります。
特に手持ち撮影や、走っている被写体を追いかけるようなカットでは、シャッタースピードが遅すぎると情報量が失われます。これは「表現の一部」ではなく、ただのミスとして受け取られてしまいます。
適切なモーションブラーを保つためには、フレームレートとのバランスを守るのが第一。状況に応じて、少しだけシャッタースピードを速めることも効果的です。たとえば24fpsでも1/80秒くらいまでなら、まだ自然な範囲です。
④設定忘れによる失敗とその防止チェックリスト
最も単純でありながら、最もよくあるのが「設定ミス」です。
撮影環境が変わったのに、シャッタースピードを変更せずにそのまま撮ってしまうパターン。撮影後に確認して、「うわ、全部白飛びしてる……」なんてことも珍しくありません。
こうした失敗を防ぐためには、撮影前にチェックリストを使うのがおすすめです。以下はシンプルなチェック例です。
チェック項目 | 確認内容 |
---|---|
フレームレート | 24fps / 30fps / 60fpsなどの選択 |
シャッタースピード | 180度ルールに基づいているか |
NDフィルター | 明るすぎる環境で使用しているか |
フリッカー対策 | 室内照明に合わせているか |
ISO感度 | 不要なノイズが出ていないか |
撮影に慣れている人ほど、基本設定の確認を怠ってミスすることがあります。チェックリストは「初心者の道具」ではなく、「プロの習慣」です。失敗を避けるためには、毎回の確認がとても重要です。
動画撮影のシャッタースピード|まとめ
動画撮影のクオリティを大きく左右するシャッタースピード。
正直、理屈だけを覚えても、実際の現場でどう使えばいいのか迷ってしまうことはあります。
でも、今回ご紹介した「基本」「応用」「失敗回避」のポイントを押さえれば、自信を持って撮影に臨むことができるはずです。最終的には、知識と感覚の両方が大切です。
ぜひこの記事を参考に、実際の撮影でどんどん試して、自分のスタイルを見つけてくださいね。良い映像づくりを応援しています!
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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